In Japanese(EUC).

第二夜 「iHamster」への道


 かつては名門と称されたハムスターブリーダーがあった。

 ハムスターが大好きな果物の名を冠しているこのブリーダーは、今では零落し、かつての栄光は見る影も無い。

 それまで研究室にしかいなかったハムスターを改良し、初めて家庭向けハムスターを生み出した輝かしい歴史があった。その後も新品種はここから生み出され、多くのブリーダーがそれに追随した。

 しかし、それも今は昔の事。名門ブリーダーはすっかり衰えてしまった。進歩は次第に停滞し、遂には歩みを止めてしまった。かつての栄光に溺れてしまったからだろうか。この危機的状態を脱するためのあらゆる努力が図られた。しかし、何一つ達成することなく全て徒労に終わった。
 このブリーダーには、熱狂的な愛好家や、頼まれもしないのに普及に奔走する狂信的伝道師が存在している事が知られていた。彼らの名門ブリーダーへの影響力強大だ。しかし、彼らの力を持ってしてもその状況に変化はなかった。皮肉な事に、彼らの狂おしいばかりの情熱が停滞の一因となり、名門の没落に拍車をかけた嫌いすらある。

 ある年の暮れも押し迫った頃、この名門ブリーダーは、再起を賭けてある零細ブリーダー(*)を買収、合併した。新たな種ハムスターと進んだ交配技術を取り入れ、次世代ハムスターの礎とするためにである。そのブリーダーは一般にはほとんど知られてはいなかったが、先進的とされるブリーダーであった。実は名門ブリーダーのカリスマ創業者が追放されて興したブリーダーだったのは偶然ではないようだ。
 その後、品種改良計画は再三の見直しがなされ、傍目には混乱しているかのようだった。

 そんな中、iHamsterが発表された。世間の耳目が集中した。

(つづく)

(*)世界で初めてのホームページは、ここのハムスターが使われたと言う


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2000-feb-27
1999-sep-14