発表会の稽古 「融 舞返」

 最後は「融 舞返」。
 「融 舞返」は、五段早舞に引き続き三段の早舞を急の位で吹きます。急の位の三段の早舞にオロシはありません。早舞の地を繰り返すだけです。
 この早舞は五段の早舞の後、いきなり急の位に変わるところがポイントとなります。急の位に変わるところで他の囃子に遅れないことはもちろん、飛び出さないようにすることが肝要です。
 「融」という曲は、融大臣の昔の風流さを端麗な舞に込めています。早舞のカカリも地謡の「あら面白や曲水の盃。うけたりうけたり遊舞の袖」と太鼓が頭を打行き、最後にスリ付けたところから「ヒヤウラウラウラ」と入ります。このカカリの入り方は「融」だけのものです。
 急の位の三段の早舞に入るところも、頭スリ付けで「ヒヤウラウラウラ」と最初に戻ります。それで「舞返」と言うのだと思います。(ただし、最初の方は”黄鐘”、後の方は”盤渉”の違いがありますが。)
 「舞返」の稽古を始めて、私は初めて会の本番で最後まで吹けるかどうか不安になりました。
 笛を吹くと唾液が口の中に溜ってきます。溜ったままでも最後まで吹ききることもありますし、途中で飲み込んでしまうこともあります。これまで、この件についてそんなに深刻な問題は経験してきませんでした。ところが、「舞返」の稽古では1度ならず、急の位に入ってから、気管の方に吸い込み、むせ返って笛を吹き続けることができなくなってしまうということが起きてしまいました。
 「舞返」の舞の演奏は8〜9分、この時間が微妙です。唾液が口の中に溜ったまま吹ききるにはちょっと長いです。息を大きく吸えなくなるため、息が苦しくなる。苦しくなって強く息を吸う時、溜った唾液も吸い込む。そしてせき込むといった悪循環が待っています。特に、急の位は息継ぐ間が短いですから、息の苦しさがますます増します。
 今回は本当に深刻な事態でした。笛を最後まで吹く、というのが最大の課題でした。
 先生から指摘を受けたのが、姿勢の問題です。少し前かがみになっているので姿勢を正して、呼吸を楽にできるようにとアドバイスを受けました。自分としては一番呼吸が楽な姿勢のつもりでしたが、やや体を起こして、腹式呼吸を徹底するように心掛けました。
 また、口の中に唾液を溜めないようにするため、途中で飲み込むようにしました。普通にできる余裕があるのは、初段のオロシと二段のオロシのところだけです。二段のオロシ以降、頑張れるかというとそれでも失敗が続きました。どこに飲み込むだけの余裕があるか、いろいろ試したところ、段の所以外難しいという結論に達し、二段の最後、三段の最後を追加しました。段の前は少しおさまります。そのちょっとした余裕を使うことにしました。それでも間を外さずに息を飲むため、「ホウホウヒ」の「ヒ」を短めにして間に余裕を持たせました。二段と三段だけ短いのは変なので、カカリ、初段の最後も短めに吹くことにしました。四段は、急の舞に移るため余裕がないのでそのままとしました。
 本番は、待謡から。今度は出端の日吉も少しかすれ気味ながら出ました。(「出端」は”能管の演奏”にアップ。) 早舞の前、笛を構えるのは少し早めで「あら面白や曲水の盃」の途中から。本当は、「うけたりうけたり」を聞いてから笛をあげたいのですが、太鼓のスリ付けを余裕を持って聞きたいという思いから、どうしても早めになってしまいます。前半は意外とさらっと。急の位に移る前は意外とシマリました。これを合図に「ヒヤウラウラウラ」と急の位に一気に突入。後は最後まで息を付かせないくらい勢いよく進みました。
 「融 舞返」は、笛方にとってはどちらかというと体力勝負的な曲でした。「融」の舞の面白さを表現するまでに到りませんでした。


[ BACK ] [ 高砂八段 ] [ 養老水波之伝 ] [ 融舞返 ]