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[ramen-ml:00185] 日月潭で薬膳の秘技をかいま見た夜



こんにちは。横沢です。
初レポートです。
個人的には本年最高(と言ってもまだ2月ですが)です。
では、どうぞ。

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 日月潭。記憶力のいい人ならぴんとくる名前かもしれない。昨年9月の台湾大地
震の報道で何度も耳にした地名だ。台湾中部の名所・旧跡・観光地である。日本語
では「にちげつたん」と読む。私がこの店の名前を聞いたのは、奇しくもその台湾
大地震の前日だった。知人が、青山にうまいラーメン屋を見つけた、と騒いでいた
ので店名を聞くと「日月潭」と言う。変わった名前であったことと、その後の地震
報道とで、その地名というか店名は記憶の深層に確かにこびりついていた。
 この店は青山にある。青山でラーメンというと、どうしても武蔵旧本店の列に並
んでしまうわけで、何度か近所に行ったにも関わらず、結局昨日まで訪れるチャン
スがなかったというわけだ。
 さて、知人のライヴがハネた午後9時すぎ、友人2名とともに、吹きすさぶ北風
にコートの襟を立てつつ青山3丁目の交差点を西麻布方面に向かう。道の右側を歩
いて約250m程、赤い看板に白抜きの文字で「林白易餃」と書いた看板が見えてくる。
ここがその「日月潭」である。引き戸をがらりと開けて店に入ると中は狭い。6人
掛けられる大きな半円形のテーブルと4人掛けのテーブルが3つ。入口の正面がカ
ウンターになっていて奥にはご主人とおぼしき60歳くらいの男性。店内にはにこに
こしている50歳くらいのおばちゃん。どうもこのふたりで切り盛りしているらしい。
 大きなテーブルについて、早速メニューを見る。メニューには麺類が4種、「林
白易餃」と書かれた水餃子が1種。あとは、老酒(グラス1杯1000円也)、ビール。
以上である。
 といりあえずということで、ライヴでビールはさんざん呑んだので、老酒を頼む。
何の飾りっけもないシンプルなビールグラス、いわゆるビアタンに室温の老酒が並
々と注がれて出てくる。うまい。いわゆる中国酒独特のあの臭味と刺激を感じない
とても良く熟成された老酒だ。
 この老酒をすすりつつ、メニューを検討する。月花美人麺2500円、これはアワビ
が載っているらしい。日月潭麺2000円、これは野菜がいろいろ入っている。中本搾
菜麺1600円、その名の通りザーサイだ。そして日本一麺(名前がちょっと違うかも)
これは椎茸と葱が載ってるそうだ。検討の結果、すべてをひとつづつ頼んで食べて
みようということになる。さらに水餃子だ。これも1人前12個と書いてるので2人
前頼む。喰いきれるかななどと心配しているとおばちゃんが、大丈夫大丈夫、とに
こにこわらいながら答えてくれた。
 グラスの老酒が半分を切った頃、水餃子が現われた。思わず「おいしそ〜」とつ
ぶやくと、おばちゃんが笑いながら「おいしそうじゃなくておいしいのよ」とのた
まう。「だってまだ食べてないもん」と反論すると、そりゃそうね、と笑っている。
その餃子、小振りでプルプルした食感と、生姜なのだろうかピリッとした味わいが
老酒にぴったりで、ぐいぐい食べてしまう。そると、そこにおばちゃんが申し訳な
さそうな顔で、月花美人麺と日月潭麺が、もう材料がなくて出来ないと告げに来た。
ガ〜ン!ショックを受ける三人。でも、ないものはしょうがない。残りのふたつだ
け出してもらうことにする。
 程なくして、中本搾菜麺と日本一麺の登場だ。どちらも麺とスープは共通。トッ
ピングが違うだけだ。細身のストレート麺は適度にこしがあり、なかなかいい感じ。
醤油ベースのあっさりしたスープは、ラーメンスープの概念とは一線を画した、何
とも言えないうまさだ。台湾と聞くと、油ごてごてというイメージがあるかもしれ
ないが、まったくそんなことはない。ザーサイとひき肉を炒めたものがトッピング
されている中本搾菜麺はちょっとピリ辛味。かたや、椎茸と葱とひき肉を炒めたも
のがかかっている日本一麺はシイタケのうま味と香りが相まって、その名の通りか
なり日本風だ。どちらも、信じられないくらいさっぱりしている。おそらくほとん
ど油は使っていないのではなかろうか。あまりのうまさにあっという間に食べ乾し
てしまった。
 食後いろいろ聞いてみたら、ご主人は元は(今もか?)禅宗のお坊さんなのだそ
うだ。30年ほど前に布教活動で日本にやってきたというからたたごとではない。そ
の修行の一環で始めた薬膳料理の思想でラーメンを作り始めたので、スープにも麺
にも餃子にも様々な漢方薬が配合されているのだそうだ(でもそんな味も匂いも全
然しない)。それにしても、「体の悪いところを食で治す」という薬膳の思想を
「日本の日常」であるラーメンで体現してしまうのであるから、このご主人の布教
活動は見事に成功しているのではないだろうか。
 会計を済ませて外に出た。値段がそこそこ張るせいで懐には寒波が襲来している
のだが、身体の方はラーメンが与えてくれた温度以上に温まっている気がする。う
むむ、ひょっとしてこれも薬膳のおかげなのだろうか。そんなことをぼそぼそとし
ゃべりつつ、男三人は再び夜の街へ消えていく。「林白易餃」の看板は、変わらず
ちょっと寂しげに赤く光っていた。

(メモ)
お休みは特になし。
ただし、営業は夜のみ。18時か19時前後から深夜0時ごろまで。
 次回はもうちょっと早めに行って、今回食べ損ねた月花美人麺と日月潭麺を食べ
ようと思う。それと、聞き忘れた「林白易餃」の名前の由来なども聞いてみたい。

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